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なむなむブログ

京大薬学部4年生。書評、京都観光、考えたことをつらつらと。

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【書評】『家族八景』筒井康隆

筒井康隆の人気シリーズ「七瀬」の一作目です。

18歳の少女七瀬が自らのテレパスを隠すべく、女中として8つの家庭を転々とし、その中で起こる日常生活を、忠実に心理を描写しながら描いています。

読んでから知ったのですが、ドラマ化もされているみたいですね。

 

www.mbs.jp

 

あらすじ

無風地帯

尾形家は、造船会社の総務部長の夫と妻、大学生の姉と弟の4人家族です。夫は妻を軽蔑以上に蔑んでおり、妻は夫に何も感じていません。いや、日常生活の些細なことを考え続ることで、何も感じないようにしています。さらに父と息子が同じ女と寝ており、息子はそれを知りながらも、その関係を続けます。姉は家族に隠しながら、大学の男と寝ています。それぞれが享楽的に自分の問題を考え続けており、そこに家族の結びつきは感じられず、七瀬は家庭の崩壊を予期します。

 

澱の呪縛

神波家は13人家族で、七瀬は家に到着した時から何か異臭を感じます。家事をする中で、臭いの元を探すのですが、洗濯物でも台所でもないことがわかります。日常において神波家の家族は洗濯されていない服を身につけたり、食器が洗われていなかったりと、不潔の中で生活しています。この家族は、全員が不潔にしているという澱の中に団らんしていたのです。そしてある時七瀬が家中を掃除し、自らが不潔だったことを外部の人間に知らされることになった神波家は七瀬に暇をやり、再び団らんを取り戻すのでした。

 

青春讃歌

 河原家は主人と妻の二人暮らし。妻は論理的で高飛車な命令を七瀬に下し、自分は買い物と称して若い男の元へと会いに行きます。その浮気に気付きながらも心の中で妻を批判するだけで自分を納得させる夫。そしてある日、若い男の元へスポーツカーで向かっていた妻は、事故を起こし、それを夫に咎められます。「スポーツカーなんて若者が乗るものだ。歳をとると判断力が鈍る。」と。妻が若い男に会ったり、スポーツカーに乗っていたのは、自分の若さを自分に言い聞かせるためであったので、夫の忠告に傷つきます。そして次にスポーツカーを運転した時、自らの若さを証明するかのようにスピードを上げ、死亡事故を起こしてしまいます。

 

水蜜桃

 桐生家では、早期退職した夫が家で暇を持て余しています。若くて出世をしていた夫は、再就職するのは恥だとして、家でダラダラと過ごします。それを見た家族は、夫を邪魔者扱いするので、夫はより居心地が悪くなります。会社勤めの頃から遊び嫌いであった夫は、仕事を失ってから遊び方がわからず、仕事に変わる社会とのつながりとして、七瀬に目をつけます。外部から来た若い女を犯すことで、自分と社会のつながりを見出そうと考えたのです。しかし策略は失敗に終わり、社会とつながる最後の望みを失った夫は狂ったように笑い続けます。

 

紅蓮菩薩

 根岸家は、上品かつインテリで有名な妻と心理学者の夫と幼い子どもの3人暮らしです。妻は自分が良妻であることをアピールするために、夫がどうしようもない人間であること、その研究がいかにつまらないものであるかを外部に知らせています。七瀬を女中として雇ったのも、上流階級であることをアピールするため。そんな妻に嫌気がさしている夫は、研究室の大学生と浮気をしています。バカにしていた夫が浮気をしていることを知った妻は嫉妬に燃え、家庭の崩壊を予期します。そんな中、心理学者の夫は七瀬のテレパスに興味を持ち、実験をしたいと迫ります。どうしても実験に参加したくない七瀬は泣きながらそれを拒み、それを見た妻が、夫が七瀬にも手を出したと早合点し、怒りが頂点に達し自殺へと踏み切ります。

 

芝生は緑

 隣どうしの高木家と市川家が舞台。高木家の主人は市川夫人に、高木夫人は市川家の主人に自らのパートナーにない魅力を感じており、市川家でもまた同様に高木家の主人、夫人にそれぞれ惚れています。両家のお手伝いとして働く七瀬はその気持ちに気付き、それぞれがパートナーを交換するように、それとなく仕向けて。。。。ずっと共に生活していると悪いところばかりが目につき、隣の芝が青く感じるものです。

 

日曜画家

 有名画家の息子、竹村家の主人は、普段会社勤めをしており、日曜日になるとアトリエにこもって絵を描きます。しかし絵は売れず、父の七光りに惹かれて嫁入りした妻は苛立ち、しばしば夫をとがめます。抽象画を書く主人の思考は、七瀬がテレパスで覗き込んでも複雑で、七瀬はその思考の深さに惹かれます。しかし、主人は会社で若い社員と浮気をし、挙句の果てには七瀬にまで欲望を抱くようになり。。。

 

亡母渇仰

 清水家の主人は結婚してからも、母離れができていませんでした。どんな選択も母に頼っていた主人は、母の葬儀で、周りも気にせず取り乱します。そして、自分を残してこの世を去った母を恨むまでに。火葬の直前、七瀬はテレパスを用いて、どこからか、ある声を聞きます。なんと棺の中で、母が生きていたのです。母が生きていることを知っているのは、七瀬だけ。知ったからには、生きていることを報告すべき。でもそれを伝えてしまえば、自分のテレパスが知れてしまいます。その葛藤の中、死者の精神を覗くことになりました。

 

感想

 まず、テレパスで人の心の中を知れるという設定が面白いです。当然ながら、僕らは普段、他人の、悪い部分を取り繕ったり、良い人間を装った言動しか見ることができません。でも実際には、人の言動はそれぞれ複雑な心理が絡み合って起こります。それを表現するために、うまくテレパスが使われていました。テレパスの限界や能力についての説明があることで現実味が増し、よりストーリーに入ることができたのも、その筆力によるものだと思います。

また、家族や夫婦など、一見安定しているように見える集団も、互いのエゴがぶつかりあい、非常に絶妙なバランスで成り立っていることを再確認しました。人間は誰よりも自分が一番可愛くて、その均衡の中に日常があるのだと。

 

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